2024年10月12日土曜日

第9回演奏会の曲目解説(3)

第9回演奏会の開催に先立ち、当日配布するプログラムに掲載の解説文をご紹介します。ご来場前に是非ご一読ください。

アントニン・レオポルト・ドボルザーク(1841-1904) 


交響曲第8番 ト長調 作品88

 ドボルザーク(チェコ語の発音はドボジャークに近い)は、後期ロマン派を代表するボヘミア(現在のチェコ中西部)出身の作曲家。実家は肉屋と宿屋であったが、父はツィターの名手で母はピアノを弾き、ドボルザークも幼少からヴァイオリンの才能を発揮した。両親の意に反してプラハのオルガン学校に進み、卒業後はオーケストラのヴィオラ奏者となる。
 作曲家としては当初ワグネリアンであり、ワーグナーに倣ってライトモチーフの手法などを用いてオペラを書いたが成功しなかった。30歳でオーケストラ奏者を辞し、個人レッスンで生計を立てながら作曲活動に励むと、徐々に成功し始める。1877年には奨学金審査に提出した「モラヴィア二重唱曲集」が審査員を務めていたブラームスの目に留まり、ジムロック(出版社)への推薦を得た。ジムロックからの依頼で書いたピアノ連弾作品「スラヴ舞曲集」は大ヒットとなる。

 交響曲第8番は、1889年の8月から11月にかけてボヘミアのヴィソカーにて作曲され、翌年、プラハで自身の指揮とプラハ国立歌劇場管弦楽団によって初演された。義兄がヴィソカーに建てたルネッサンス様式の別荘は現在、ドボルザーク記念館として一般に公開されている。(今回のフライヤーデザインの背景にも使用)

第1楽章 Allegro con brio ト長調 4/4拍子
 序奏のないソナタ形式。調号はト長調であるが、第1主題冒頭でチェロによって提示されるのはト短調の悲歌。第2句でフルートが快活なト長調の旋律を奏でる。比較的長い経過部を経て、低弦のピチカートに乗って木管による第2主題がロ短調で奏される。

第2楽章 Adagio ハ短調 2/4拍子
 不規則な3部形式の「ドゥムカ」の音楽。周辺諸国から虐げられ続けた歴史を持つボヘミアの人たちには容易くは言葉にできない内なる思いがある。その思いが込められたのが「ドゥムカ」なのだ。平和な時代、平和な国に生きる我々だが、音楽が伝えてくれる「ドゥムカ」の精神を思いの限り表現したい。第1部は寄せては返す波のように、急激に揺らぐ2小節フレーズの連続により構成される。第2部、第3部はそれぞれ木管、ヴァイオリンが奏でる優美な旋律と、細かく動く伴奏の構図で成り立つ。いずれも、優美な中に計り知れない激情を孕んでいることを忘れてはならない。最後は再び、寄せては返す波のように消えてゆく…

第3楽章 Allegretto grazioso – Molto vivace ト短調 3/8拍子
 A-B-Aの3部形式。Aは2小節が最小単位のメランコリックなワルツ。ここでも急激な揺らぎが特徴的で、2楽章との統一感を形成している。中間部トリオの主題は自作のオペラ《頑固者たち》からの引用である。Aを再現した後、トリオのリズムを倍速にしたコーダに進み、さっと過ぎ去るように幕を閉じる。

第4楽章 Allegro ma non troppo ト長調 2/4拍子
 主題と18の変奏からなる変奏曲形式であるが、全体はソナタ形式風とも言える。トランペットのファンファーレについで、チェロが第1楽章の第1主題第2句から導かれる主題を奏し、第1変奏では低弦にファゴットが加わる。ソナタ形式の第2主題に相当する第5変奏では、トルコマーチ風のリズムに乗って、日本の童謡《黄金虫》に似た旋律が奏される。もちろん他人の空似ではあるが、この他にも全曲を通して親しみやすい旋律が散りばめられていることが、この交響曲が高い人気を博している所以である。

2024年10月11日金曜日

第9回演奏会の曲目解説(2)

第9回演奏会の開催に先立ち、当日配布するプログラムに掲載の解説文をご紹介します。ご来場前に是非ご一読ください。

バルトーク・ベラ(1881-1945) 


弦楽のためのディヴェルティメント Sz.113 (1939)

 バルトークはオーストリア=ハンガリー帝国を構成するハンガリー王国の地方都市、ナジュセントミクローシュ(現ルーマニア領)に生まれた。父は農業学校の校長、母はピアノ教師。ともに音楽を愛好した父母の影響で、バルトークも幼少からピアノを弾き、早くから作曲の才を示した。父の早逝後、ブダペスト王立音楽院に飛び級で入学したバルトークは、当初ブラームス、R.シュトラウスに傾倒したが、1歳年下のコダーイと出会い民俗音楽の研究者となってから作風を大きく変えることとなった。バルトークは後世では作曲家として有名だが、偉大なる民俗音楽(農民音楽)研究家でもあり、生涯を通じてハンガリーのみならず周辺諸国の民俗音楽の採集、記録に大きな功績を残した。

 コダーイの言葉を借りれば、「ハンガリー人は、音楽の面では19世紀の末までは文盲の状態にあった」。つまり当時は音楽を記録する知識はなく、伝統的な口承文化であった。そのため民俗音楽研究家としてのバルトークとコダーイの最初の仕事は農民と接触して彼らの歌う音楽を録音して収集すること。バルトークの仕事の膨大な成果の一部は、ハンガリー科学アカデミーから《ハンガリー民謡大鑑》として出版された。バルトークは自著の中で自身の作品について、主題的素材として民謡を用いたものと、自身の主題によるものの2種類に大別されると書いているが、実際は後者のように「自身の主題によるもの」であっても、ハンガリーの農民音楽が彼の作品の土台となっていることを述べている。

 本日演奏するディヴェルティメントは、1939年8月、スイスの指揮者・作曲家ザッハーの委嘱によって書かれた。翌年6月にバーゼルでザッハー指揮の旧バーゼル室内管弦楽団によって初演。ザッハーは同時代の音楽家のパトロンとしても名高く、彼に委嘱を受けた作曲家はバルトークの他、ストラヴィンスキー、オネゲル、ヒンデミット、ブーレーズ、武満徹など枚挙に暇がない。

 「ディヴェルティメント」(喜遊曲)の名の通り、自由な形式の3楽章構成。編成は弦五部であるが各声部にソロが配置され、ソロ群とtuttiに分かれたコンチェルトグロッソのようなコントラストも特徴的である。

 今回丸山は、指揮者でヴァイオリン奏者でもあるハンガリー人、ガボール・タカーチ=ナジ氏との共演経験を活かし、ハンガリーの伝統的な奏法やハンガリーの伝統楽器ウトガルドンを意識した奏法などを活用した音楽づくりを目指した。土臭さを感じさせるハンガリー音楽の真髄に迫る。

第1楽章 Allegro non troppo
 自由なソナタ形式。調号として明示されていないがヘ長調で始まりヘ長調で終わる。主に9/8拍子と6/8拍子で構成され、時折8/8拍子を挟み、目まぐるしく拍節が入れ替わるのはハンガリーの民俗音楽の表れである。冒頭から八分音符で刻まれるリズムは決して軽快なものではなく、粗野で土臭い田舎の風景を連想させる。
 この曲を読み解く上で避けられないのが「フィボナッチ数列」。詳細は割愛するが、中世に発見された、一定の法則に従った数字の並びである。この楽章は総拍数1681拍の黄金分割点ピッタリの129小節に、頂点であるfff(フォルティッシシモ)が配置されていることから、「フィボナッチ数列」を意識していたことが伺える。バルトークが自身の作曲技法について明言した記録はないが、後世の研究によって数列や黄金分割といった数学的な発想を取り入れ、現代音楽の先駆的手法を用いたことが明らかになっている。

第2楽章 Molto adagio 4/4拍子
 半音階を多用し、調性が曖昧な緩徐楽章。第二次世界大戦開戦前夜の陰鬱な世情を描写している。低弦が暗く、冷たい空気を醸成し、その上にヴァイオリンとヴィオラが奏でる半音階旋律が浮かび上がる。突然の強奏が闇を切り裂き、強奏と弱奏を繰り返し、そして消え入るように曲を閉じる。

第3楽章 Allegro assai 2/4拍子
 変奏曲形式。記譜上は2/4であるが実際には1小節=1拍の音楽で、複数小節を音楽的な最小単位として進行する。イントロは半音階を含む調性の曖昧な音階から、Em7の第7音をルートにした不安定な和音で進み、これが綺麗にヘ長調のカデンツに繋がる。主部は第1楽章と同じくヘ長調で始まるが、曲の最後はヘ調ではあるがフリジアン旋法で終わる。
 実はこの楽章にも随所に「フィボナッチ数列」が含まれている。拍節は3拍子や5拍子、2拍子などが目まぐるしく入れ替わり、1楽章と同様ハンガリーの民俗音楽の特徴に則っているが、フレーズの長さは3, 5, 8, 13小節の組み合わせとなっている。主要主題は5つの変奏で現れ、その音程を半音幅(長二度は2,短三度は3,完全四度は5,短六度は8,増八度は13)に置き換えてみると、ここにも2,3,5,8,13のフィボナッチ数列が現れるのだ。

 このように、両端楽章は西欧音楽の伝統を踏襲しつつも、ライフワークであった民俗音楽と、先駆的な現代音楽の手法が見事に結実した傑作と言えよう。

2024年10月10日木曜日

ドゥムカ(思い)

ドゥムカ
【dumka / думка】
ロシアや東欧の民俗音楽に基づく、哀愁を帯びた音楽の形式を表す用語。

“「ドゥムカ」とは、形式ではなく、『思い』である。”

祖国への思いが込められた民族色強い作品を3曲。
今だから伝えたい音楽があります。

M管弦楽団第9回演奏会


日時:2024年10月20日(日)19:00開演(18:45客席開場)
会場:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
指揮:丸山泰雄(当団音楽監督)
独奏:丸山泰雄(チェロ)
入場料:全席自由 1,200円(前売り)、1,500円(当日)
チケット販売:
 (1) 彩の国さいたま芸術劇場の窓口(対面のみ)
 (2) イープラス(販売ページへのリンク)
曲目:
 プロコフィエフ チェロと管弦楽のための交響的協奏曲ホ短調作品125
 バルトーク   弦楽のためのディヴェルティメント Sz.113
 ドボルザーク  交響曲第8番ト長調作品88

第9回演奏会の曲目解説(1)

第9回演奏会の開催に先立ち、当日配布するプログラムに掲載の解説文をご紹介します。ご来場前に是非ご一読ください。

セルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)


チェロと管弦楽のための交響的協奏曲 ホ短調 作品125(1952)

 プロコフィエフは帝政ロシア下、現在のウクライナのドネツィク州に生まれた。13歳からサンクトペテルブルク音楽院で作曲とピアノを学び、1917年のロシア革命以後はアメリカ、ドイツ、パリと居住地を移しながら作曲家、ピアニスト、指揮者として活躍した。作曲家としてはオペラや交響曲、バレエ音楽、協奏曲、ピアノソナタなど幅広いジャンルの音楽に傑作を残している。渡米に際しては日本を経由し、船便の都合で約2ヵ月日本に滞在し、東京、横浜で自作を含むピアノリサイタルを開催した。この時に関西で聴いた『越後獅子』を後の名曲ピアノ協奏曲第3番のモチーフに採用したとされる(諸説あり)。

 本日演奏する曲は、形態的には「チェロ協奏曲」である。元となるのはチェロ協奏曲第1番ホ短調作品58。この曲自体は1938年モスクワで初演されたものの失敗に終わり、プロコフィエフは自信を喪失したと言われる。第二次大戦後、1947年にロストロポーヴィチのチェロ独奏で蘇演されたことをきっかけに、彼の提言と協力によって大幅な改作を行って本作の完成に至る。作品番号を改め1952年、ロストロポーヴィチの独奏、リヒテルの指揮で初演された。高度な演奏技術を要求される独奏チェロが圧倒的な存在感を示しながらも、楽曲全体としては高い抒情性が特徴である。

第1楽章 Andante ホ短調 2/4拍子
 楽譜に明確に書かれてはいないが、冒頭は軍隊行進曲である。オーケストラは前線に向かう戦車の隊列を髣髴とさせ、独奏チェロは全楽章を通じてほぼ常に高音部記号で書かれており、戦場に向かう兵士の魂の悲痛な叫びの様相を呈している。全体は5つのセクションに分かれている。
 最初の6小節で基本のリズム(=運隊の行進)が提示され、これはオスティナート(同一音型)のように繰り返し現れる。次のセクションはヴァイオリンの下降音階で始まり、転調を繰り返す。3番目のセクションは複数の旋法で構成される独奏チェロのカデンツァである。4番目のセクションではピチカートを多用したオーケストラ中心のブリッジ。5番目のセクションでは最初の主題が戻ってくる。

第2楽章 Allegro giusto イ短調 4/4拍子
 自由なソナタ形式。独奏チェロパートが最も充実して書かれている中心的楽章で、これに比較すると「第1楽章と第3楽章はプロローグとエピローグに過ぎない」と評されることもある。独奏チェロの重音奏法を多用した超絶技巧と各管楽器のソロの絡みが魅力的。それを引き立たせるために、オーケストラには特に弱音のクオリティが求められる。独奏チェロが奏でる第1主題はほぼ常にイ短調の属音であるホ音をピークとして、不安を煽り続ける。変イ短調、変ホ短調など次々転調した後、ホ長調に転調すると伸びやかな第2主題が現れる。独奏チェロのカデンツァはいたる所にオーケストラのオブリガートを伴い、高度なアンサンブルが求められる。

第3楽章 Andante con motoホ長調 3/2拍子
 冒頭に独奏チェロが美しく伸びやかな第1主題を奏で、中盤からベラルーシ民謡を元にした民族色の濃い第2主題が現れる。この2つの主題による別個の変奏曲が組み合わされる二重変奏曲形式。第2変奏以降は中断せず演奏される。結尾部ではトランペットから木管に受け渡されるファンファーレの向こうから、独奏チェロの超絶技巧が浮かび上がる。

2024年9月12日木曜日

第9回演奏会のチケット発売

まだまだ暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
第9回演奏会のチケットをイープラスにて発売しました。
丸山泰雄のコンチェルト弾き振りシリーズは早くも第4弾、
今回はプロコフィエフのチェロと管弦楽のための交響的協奏曲作品125を取り上げます。

M管弦楽団第9回演奏会

日時:2024年10月20日(日)19:00開演(18:45客席開場、18:35ロビー開場)
会場:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
指揮:丸山泰雄
独奏:丸山泰雄(チェロ)
入場料:全席自由 (前売り)1,200円 (当日)1,500円
曲目:
 プロコフィエフ チェロと管弦楽のための交響的協奏曲作品125
 バルトーク 弦楽のためのディヴェルティメント
 ドヴォジャーク 交響曲第8番ト長調作品88
チケット販売:イープラス
https://eplus.jp/sf/detail/4151990001

みなさま、お誘いあわせの上お越しください。

2024年8月2日金曜日

室内楽演奏会のご案内

Orchestre de M présente


« Concert de musique de chambre 2024 »

当楽団メンバーによる室内楽の演奏会を開催します。
暑い夏の午後ですが、一服の清涼剤になれば幸いです。

■日時:2024年8月31日(土) 14:30開演(14:15開場)
■会場:亀戸文化センター 3Fカメリアホール
■入場料:無料(全席自由)
■曲目
 ベートーヴェン 弦楽三重奏曲第3番 作品9-2より
 ベートーヴェン 弦楽三重奏のためのセレナード 作品8
 シュターミッツ 木管四重奏曲 作品8-2
 J.S.バッハ(野平一郎編) シャコンヌ(4つのヴィオラのための)
    ~無伴奏バイオリンのためのパルティータ第2番より

皆様のご来場をお待ちしております。

2024年7月30日火曜日

第9回演奏会のお知らせ

M管弦楽団第9回演奏会は以下の通り開催予定です。
丸山泰雄の協奏曲弾き振りシリーズの第4弾はプロコフィエフの交響的協奏曲ホ短調。
バルトークとドボジャークの名曲もお聞き逃しなく。

M管弦楽団第9回演奏会

日時:2024年10月20日(日)19:00開演(18:35ロビー開場、18:45客席開場)
会場:彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール
指揮:丸山泰雄
独奏:丸山泰雄(Vc)
曲目:
 プロコフィエフ 交響的協奏曲ホ短調作品125(チェロと管弦楽のための)
 バルトーク   弦楽のためのディヴェルティメント
 ドボルザーク  交響曲第8番ト長調作品88
入場料:前売り1,200円 当日1,500円
チケット発売:9月1日よりイープラスにて

第9回演奏会の曲目解説(3)

第9回演奏会の開催に先立ち、当日配布するプログラムに掲載の解説文をご紹介します。ご来場前に是非ご一読ください。 アントニン・レオポルト・ドボルザーク(1841-1904)  交響曲第8番 ト長調 作品88  ドボルザーク(チェコ語の発音はドボジャークに近い)は、後期ロマン...