2020年11月20日金曜日

【曲目解説】R.シュトラウス メタモルフォーゼン(変容)~23の独奏弦楽器のための習作

♭ リヒャルト・シュトラウス(1864-1949) メタモルフォーゼン(変容) ~ 23の独奏弦楽器のための習作

 1864年に生まれ、幼少期はモーツァルトを愛したリヒャルト・シュトラウス。19世紀も終わるころにはワーグナーの影響を色濃く受けた交響詩やオペラを作曲するようになります。20世紀に入るとクラシック音楽シーンではさらに前衛化が進み、無調あるいは12音技法などによって、それまで積み上げられてきた音楽構造を崩していく試みが増えていきます。しかし、シュトラウスはその一歩手前に踏みとどまり、ロマンティックで色彩感あふれる具体的な描写にこだわった作曲家でした。言ってみれば、腐り始める寸前の熟しきった果実のような魅力があるというところでしょう。ところが、そんなシュトラウスの作品群の中にあって特異な弦楽合奏曲があります。それが「メタモルフォーゼン」と名付けられた23本の弦楽器のための「習作」であります。習作というと駆け出し時代の試作品かと思ってしまいますが、この作品はシュトラウスの晩年にあたる第二次世界大戦の末期に作曲されており、実験作のような位置づけだったのかもしれません。

 戦争による徹底的な破壊を目の当たりにし、それが創作の原動力となったこの作品には、単なる晩年の作と言うにはとどまらない特別な深みがあります。ゆったりとした序部に始まり、切迫した中間部を経て、沈みゆくような終結部で終わる三部構成。自らの生涯を顧みる作品だと語ったとおり、目まぐるしく現れる数々の主題はシュトラウス自身やワーグナーの作品から借用されており、それらが折り重なって関連付けられていきます。最後には「In Memoriam!」という言葉と共にベートーヴェンの「葬送行進曲」が引用されます。全体で25分ほどの演奏を終えて残る深い余韻に、シュトラウスが込めた追悼のメッセージを感じとることができるでしょう。

 ところで、一般的な弦楽合奏では、第1と第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの5つのパートで書かれており、複数人で各パートを演奏します。その場合ふたりでひとつの楽譜を共有するのですが、「メタモルフォーゼン」では独立した23の楽譜を使います。意外なことに、それなりに盛り上がっている場面にもかかわらず、23パート全てには音が与えられていないときがあります。例えばオーケストラの中にあるハープ弾きならばそういう仕打ちにも慣れていますが、同じ弦楽器とはいえ特にヴァイオリン弾きにとっては慣れない状況。もし居心地悪そうにしていたとしても、見て見ぬフリをしていただければ幸いです。楽譜が23冊あるならば、23本の譜面台を用意せねばなりません。物理的な接触を避けるべく譜面台はひとり一本とするのがほとんどという今の状況にぴったりです。加えて、新しい生活様式への行動"変容"なんて言い方もよく聞きます。やや意味は異なりますが、今年は「メタモルフォーゼン」の演奏機会が増えているようです。

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